誰も住まなくなった実家をどうするか。主な選択肢は「売る」「貸す」「解体する」「持ち続ける」の4つです。この記事は、4つを比べる判断材料を整理し、次に確認することを1つ決めるためのものです。結論を今日出す必要はありません。
判断を先送りしている間も、固定資産税と管理の手間は毎年かかります。さらに、相続登記の申請義務化には2027年3月31日という期限があり、相続空き家の3,000万円特別控除は2027年12月31日までの譲渡が対象です(2026年7月時点・法務省/国税庁サイトより)。期限のある制度が2つ動いています。
放置されがちな「その他の空き家」は、全国に385万6千戸あります(総務省「令和5年住宅・土地統計調査」確報集計)。決められずにいるのは、あなただけではありません。
この記事で分かること
- 実家にとれる4つの選択肢と、それぞれが向いている条件
- 4つの選択肢を比べるための「実家4択マップ」
- 「持ち続ける」を選んだとき、1年でいくらかかるのか(先送りコスト計算)
- 「空き家は固定資産税が6倍」が正確ではない理由
- 期限のある2つの制度と、いま確認すべきこと
実家にとれる道は4つ。まず全体像を押さえる
実家の扱いは「売る」「貸す」「解体する」「持ち続ける」の4つに整理できます。売るは現金化して関係を断つ道、貸すは所有したまま収入を得る道、解体するは建物を消して土地だけにする道、持ち続けるは判断を保留する道です。どれが正解ということはなく、築年数・実家までの距離・家族の合意・使える資金の4つで向き不向きが変わります。ただし「持ち続ける」だけは、選んだつもりがなくても時間の経過で自動的に選ばれてしまう点に注意が必要です。以下でそれぞれの中身を見ていきます。
売る
現金化でき、固定資産税も管理の手間もなくなります。相続空き家の3,000万円特別控除など、税の負担を抑える制度も用意されています。一方で、思い出のある家を手放すことへの抵抗や、きょうだいの同意が必要になる場面があります。
貸す
所有権を残したまま家賃収入を得られます。ただし、人が住める状態にするための修繕費が先に出ていきます。遠方だと管理会社に任せることになり、その費用もかかります。借り手がつかなければ、修繕費だけが残ります。
解体する
建物の倒壊や近隣への迷惑という心配は消えます。土地だけの方が売りやすくなる場合もあります。ただし解体には費用がかかり、建物が無くなると土地の固定資産税に適用されていた住宅用地の軽減が外れます。解体してから売れずに残ると、税負担だけが上がります。
持ち続ける
いま決めなくてよい、という安心があります。その代わり、固定資産税・管理費・保険料・帰省の交通費が毎年出ていきます。管理が行き届かない状態が続けば、自治体から指導を受ける場合もあります。
4択のうち、どれを選べばいいのか(実家4択マップ)
4つの選択肢は、築年数・実家までの距離・家族の合意・使える資金の4軸で絞り込めます。築年数が古く、距離が遠く、合意が取れていて、資金が乏しいなら「売る」に寄ります。築浅で近く、修繕にあてる資金があるなら「貸す」も現実的です。建物の傷みが激しく近隣に迷惑がかかりそうなら「解体する」が先に来ます。「持ち続ける」が合理的なのは、近い将来に自分や家族が住む予定があるときだけです。次の表で、自分がどこに当てはまるかを確認してください。
| あなたの状況 | 寄せるべき選択肢 |
|---|---|
| 築40年超・遠方・きょうだいの合意あり・修繕資金なし | 売る |
| 築浅・車で1時間以内・修繕にあてる資金あり | 貸す(売るとの比較) |
| 建物の傷みが激しい・近隣から苦情がある・土地は売れそう | 解体する(売却とセットで検討) |
| 数年内に自分か子が住む予定がある | 持ち続ける |
| きょうだいの合意が取れていない | どれも選べない。合意形成が先 |
4軸のうち「家族の合意」だけは、他の3つと性質が違います。ここが取れていないと、残り3軸で答えが出ていても前に進めません。合意が取れていない方は、まず話す順番を決めるところから始めてください。
決めずに持ち続けると、1年でいくらかかるのか(先送りコスト計算)
「持ち続ける」には、家賃のような分かりやすい支出がありません。そのぶん、かかっている金額が見えにくくなります。実際には、固定資産税・都市計画税、管理を人に頼む費用、火災保険料、水道と電気の基本料金、そして帰って手入れをするための交通費が、毎年出ていきます。金額は家と地域で大きく変わるため、ここでは目安の数字を示しません。代わりに、ご自身の数字を入れて合計する計算シートを用意しました。去年の納税通知書を手元に置いて、埋めてみてください。
| 項目 | 年間の金額 | どこで分かるか |
|---|---|---|
| 固定資産税+都市計画税 | 円 | 毎年届く納税通知書 |
| 管理委託費(巡回・草刈り) | 円 | 委託していなければ0円 |
| 火災保険料 | 円 | 保険証券。空き家は割高、または加入できない場合があります |
| 水道・電気の基本料金 | 円 | 止めていなければ発生します |
| 帰省の交通費 | 円 | 年に何往復したかで計算 |
| 合計(1年) | 円 |

実家が遠方にあり、定期訪問を続けられるか迷っている方は、遠方の空き家を自分で管理するか、管理サービスへ委託するかの比較と確認手順も確認してください。
出てきた金額を5倍してみてください。それが、あと5年迷った場合に出ていく金額です。この数字は「早く売りなさい」という意味ではありません。迷うことにも値段がついていると知ったうえで、迷う期間を自分で決めるためのものです。
「空き家は固定資産税が6倍になる」は正確ではない
空き家の記事でよく見る「固定資産税が6倍になる」という説明は、正確ではありません。まず、税の軽減が外れるのは、市区町村から「勧告」を受けた場合です。空き家を持っているだけ、あるいは「管理不全空家等」と認定されただけ、その前の「指導」の段階では外れません(2026年7月時点・国土交通省サイトより)。さらに「6倍」は税額そのものではなく、税額を計算するもとになる課税標準の話です。実際の増え方には上限と緩和措置があります。
そもそも「6倍」はどこから来た数字か
住宅が建っている土地には、固定資産税の軽減があります。200㎡以下の部分(小規模住宅用地)は課税標準が6分の1、200㎡を超える部分は3分の1です。都市計画税では、それぞれ3分の1・3分の2になります(2026年7月時点・総務省サイトより)。この「6分の1」が外れて元に戻ることを指して「6倍」と言われています。
実際にはどれくらい増えるのか
軽減が外れた土地は「非住宅用地」として扱われ、課税標準には評価額の70%という上限があります。したがって課税標準は「評価額の6分の1(約16.7%)」から「最大でも評価額の70%」までしか上がりません。公表されている数字をもとに当サイトで試算すると、固定資産税だけで見た増加は約4.2倍が上限です。都市計画税は軽減割合が違うため、小規模住宅用地の部分で約2.1倍にとどまります。両方を合わせた実際の負担が単純に6倍になることはありません。
しかも一度には上がらない
固定資産税には負担調整措置があり、前年度の課税標準額をもとに税額を段階的に引き上げます。軽減が外れた翌年に、いきなり上限まで跳ね上がるわけではありません。増え方は土地や年度によって異なります。正確な金額は、実家のある市区町村の窓口でご確認ください。
この項目を丁寧に書いたのは、不安を煽る説明が多いからです。勧告を受けていない限り、明日いきなり税金が跳ね上がることはありません。落ち着いて、順番に決めていけば間に合います。
売ると決めたら、何から始めるか
売却は、思い立って不動産会社に電話するところから始めると、途中で必ず止まります。先に権利と家族の話を片づけないと、査定が出ても契約に進めないからです。順番は「①登記名義の確認 → ②相続登記 → ③きょうだいの合意 → ④残置物の整理 → ⑤複数社に査定 → ⑥売り方を決める → ⑦税の特例を確認」です。最初の①は、法務局で登記事項証明書を取れば今日でも確認できます。名義が亡くなった親のままなら、相続した実家の名義変更をしない場合の期限と手順を確認し、②を進めます。
- 登記名義の確認:法務局で登記事項証明書を取得します。名義が誰かを確認します
- 相続登記:名義を相続人に移します。ここでつまずく人が最も多い箇所です
- きょうだいの合意:売る・売らない、価格の下限をそろえます
- 残置物の整理:実家売却前の片付けと残置物の判断を確認します
- 複数社に査定を依頼:1社だけでは相場の幅が分かりません
- 売り方を決める:買取(早い)か仲介(時間はかかる)か。一般に買取は仲介より価格が低くなる傾向があります
- 税の特例を確認:3,000万円特別控除の要件に当てはまるかを、税理士に確認します
査定の準備では、相続した実家の売却査定で必要な書類と依頼前チェックで、最初の相談・訪問査定・媒介契約以降に分けて確認できます。
買取と仲介の違いは、空き家の買取と仲介を同じ条件で比べる手順で、提示額、費用、引渡し条件を確認できます。
売る以外の道——貸す・解体する・国に引き取ってもらう
売却が唯一の出口ではありません。人が住める状態なら「貸す」道があり、建物が危険なら「解体する」道があります。さらに、相続した土地を国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度もあります(2023年4月27日開始・法務省)。ただしこの制度は「いらない土地を気軽に手放せる制度」ではありません。建物がある土地は対象外で、担保権がついた土地、境界が不明な土地、危険な崖がある土地なども引き取ってもらえません。負担金として基本20万円の納付も必要です。
実績を見ると、制度の性格がよく分かります。令和8年(2026年)5月31日現在で、申請5,545件に対し、国庫帰属が認められたのは2,762件です(法務省統計)。却下81件、不承認85件。申請したうちの約半数にとどまっています。しかも建物付きの実家は、まず解体してからでないと申請の土俵にも乗りません。
唐津市内の老朽危険空き家を解体する場合は、唐津市の空き家解体補助金の対象と2026年9月30日までの事前調査を契約前に確認してください。
期限のある制度が2つある(2026年7月時点)
実家の判断を先送りしにくくしているのが、期限のある2つの制度です。ひとつは相続登記の申請義務化。2024年4月1日に施行され、施行前に相続した実家も対象で、期限は2027年3月31日です(法務省)。もうひとつは相続空き家の3,000万円特別控除で、対象は2027年12月31日までの譲渡です(国税庁)。前者は名義を直す期限、後者は税の軽減を受けられる期限で、性質が違います。相続登記には相続人全員の確認が、売却には査定から引き渡しまで数か月が必要です。逆算すると、猶予は見た目ほど残っていません。
もうひとつは相続空き家の3,000万円特別控除です。一定の要件を満たす実家を売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。対象は2027年12月31日までの譲渡です(国税庁タックスアンサーNo.3306)。要件には「昭和56年5月31日以前に建築されたこと」「区分所有建物でないこと」「相続開始の直前に被相続人以外に居住していた人がいなかったこと」「売却代金が1億円以下であること」などがあり、相続人が3人以上の場合は1人あたり2,000万円に縮小されます。
なお、2026年4月1日からは住所等変更登記も義務化されました。変更日から2年以内に申請しないと、5万円以下の過料の対象となる場合があります(法務省)。相続登記とは別の制度です。実家を相続したあとに引っ越した方は、こちらも確認してください。
いずれの制度も、過料が自動的に科されるものではありません。相続人が極めて多数である、遺言の有効性が争われている、重い病気である、といった「正当な理由」がある場合は対象外とされています。すぐに登記できない事情がある方には、相続人申告登記という簡易な手続きも用意されています。
よくある質問
相続登記をしないと、必ず10万円取られるのですか?
いいえ。正当な理由がないのに申請を怠った場合に、10万円以下の過料の対象となる場合があるという制度です。自動的に科されるものではありません。事情がある場合は、まず法務局か司法書士にご相談ください。
空き家を放っておくと、来年から固定資産税が6倍になりますか?
なりません。軽減が外れるのは市区町村から勧告を受けた場合で、そのうえで課税標準には評価額の70%という上限があり、負担調整措置により段階的にしか上がりません。
解体費用はいくらかかりますか?
建物の構造、重機が入れる道かどうか、アスベストの有無、残っている家財の量、地域によって大きく変わります。当サイトでは、確かな一次データを示せるようになるまで金額の目安を掲載しません。複数の解体業者から見積りを取ってください。
きょうだいと意見が合いません。どうすればいいですか?
個別のご事情によります。当サイトは法的な助言を行いません。話がまとまらない場合は、司法書士や弁護士など専門家への相談をご検討ください。
まとめ|4択を決める前に、判断を止めていることを1つ確認する
売る・貸す・解体する・持ち続けるのどれを選ぶかは、今日決めなくても構いません。先に、判断を止めている「分からないこと」を1つ減らしてください。
- 現在の登記名義が分からない:登記事項証明書で現在の登記名義を確認する
- 家族の意見がそろっていない:話し合う日と参加者を決める
- 建物の状態や費用が分からない:修繕・解体の現地確認を依頼する
- 売れるか、貸せるか分からない:複数の不動産会社へ売却査定・賃料査定を依頼する
確認結果と年間の保有コストがそろえば、4つの選択肢を感情だけでなく条件で比べられます。まずは、自分の判断を止めている項目から1つだけ着手してください。
※本記事は2026年7月時点の公開情報に基づく一般的な情報提供であり、個別の助言ではありません。制度は改正される場合があります。固定資産税の増加幅に関する記述は、総務省が公表する軽減割合と課税標準の上限をもとに当サイトが試算したものです。個別の状況に応じた判断は、司法書士・税理士・宅地建物取引士などの専門家にご相談ください。
出典:法務省「相続登記の申請義務化について」/法務省「住所等変更登記の義務化について」/法務省「相続土地国庫帰属制度」(統計は令和8年5月31日現在)/国税庁タックスアンサーNo.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」/国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法」/総務省「固定資産税の概要」/総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」確報集計(いずれも2026年7月9日取得)
